1 因果関係の問題とは

交通事故の後に,何らかの症状(首・腰の痛み,頭痛,めまい,難聴など)が現れたとします。

その場合でも,その症状が交通事故によって発生したものなのか,それとも他の原因によるものなのか(分からないのか)が争われる場合があります。
これが「因果関係」の問題です。

交通事故の損害として賠償の対象になるのは,「相当因果関係」のある損害だとされています。
「相当因果関係」というのは,「その事故があれば通常そのような症状が発生するであろう」と常識的に判断される関係にあることをいいます。

2 「因果関係」が争いになるケース,ならないケース

物理的に事故のせいであることが分かりやすいものは余り争いになりません。
例えば,事故で強打した部分を骨折した場合などは,「事故」と「骨折」の因果関係は通常明らかです。

しかし,目に見えにくい症状(画像でも見えにくい症状)については「因果関係」が争われるケースが多いのです。
レントゲンやMRIで異常が発見されない場合の首・腰,手足などの神経症状(痛み,しびれ),高次脳機能障害や,精神的症状(PTSDなど)などです。

また,事故直後ではなく,しばらくしてから症状が出てくる場合がありますが,その場合も「因果関係」が争いになるケースが多いです。

3 因果関係の証明

医師としても,患者の症状が事故によるものかどうかの判断が難しい場合が多いです。どちらかといえば,医師は患者の今の状態に対して適切な処置をすることを仕事としているので,「事故との因果関係」をきかれても答えられないのが普通だと思います。

因果関係が裁判などで争われる場合に証明する材料としては,

① 事故前に症状がなかったこと(事故前の医療記録など)
② 事故の衝撃が症状を引き起こし得るものであること(事故の記録,故障した車の写真など)
③ 事故後に症状が発生する経緯(病院のカルテなど)
④  症状発生のメカニズム(「機序」とも呼ばれます)
⑤  医療文献(外傷によりそのような症状が起こりやすことなど)
⑥  事故の他に症状を引き起こす原因がないこと

などが挙げられます。

4 「割合的」な認定

原則として,裁判では,「因果関係」が不明であれば損害として認められません。
ただし,場合によっては,裁判所としてもよく分からないものの「因果関係」を否定することもできないという場合には,「割合的」な認定をすることがあります。

つまり,例えば「100%事故のせいとは認めないが,50%(30%,70%)を認める」という判決になることもあります。
患者を治療する意味での医学は進歩していますが,症状がどこから来ているかをはっきりさせることが難しいケースはやはり多く,被害者側としては粘り強く「事故による症状であること」(因果関係)を主張して,証明する努力が必要です。